交通事故に関わる法律~民法
2015.05.26更新
交通事故に適用される法律はいろいろありますが、その中の1つとして民法があります。民法は一般の市民同士の間の問題を処理する法律ですから、一般の市民同士の間の交通事故には民法が適用されます。交通事故は民法上の不法行為になりますから、加害者には、民法の規定に従い、被害者に対して損害賠償金を支払わなければならないという義務が発生します。
民法は市民同士の問題を処理する基本的なルールを定めている
法律には、公法と私法があります。公法とは、国などの公的機関と一般の市民との間の権利、義務関係を定めた法律です。公法には、憲法、行政法(国家賠償法、地方自治法)などがあります。
一方、私法というのは、一般の市民同士の権利、義務関係について定めた法律です。私法には、民法、商法、会社法などがあります。
民法は、私法の一般法と呼ばれます。一般法というのは、適用される対象がより広い法律のことです。一般法に対して特別法というのがありますが、特別法は、適用対象がより限定された法律です。一般法と特別法は相対的なもので、たとえば、商法は民法の特別法ということになります。
民法は私法全体の一般法ですから、市民同士の間で起こる問題について、いちばん基本的なルールを定めた法律ということです。一般の市民同士で契約を結ぶときや、一般の市民同士の間でトラブルが生じたときに、当事者間にどのような権利や義務が発生するのかを定めているのが民法です。
交通事故は民法上の不法行為に該当する
交通事故を起こした場合には、様々な法的責任が発生します。刑法にもとづき刑事罰を受けることになったり、行政法(道路交通法)にもとづき免許取消、停止になったりもしますが、民法にもとづき民事上の損害賠償責任も発生します。
車同士がぶつかって交通事故が起こった場合には、通常は車を運転していた市民同士の問題になりますから、民法が適用されることになります。そして、交通事故は、民法に規定されている「不法行為」(709条)と呼ばれる行為に当たります。
不法行為というのは、故意または過失によって、他人の権利や利益を違法に侵害する行為をいいます。交通事故は、意図的に起こす場合もありますが、一般的には過失によって他人の体やモノを傷つける行為です。こうした行為は、違法行為と言うこともできますから、不法行為に該当することになるのです。
交通事故を起こすとどんな責任を負うか
民法では、不法行為をした人は、被害者に対して損害を賠償しなければならないと定められています。交通事故は不法行為ですから、交通事故の加害者は、この民法上のルールに従って、被害者に対して損害を賠償する責任を負います。逆に言うと、交通事故の被害者は、民法にもとづき加害者に対して損害賠償を請求できるということです。
なお、民法では、不法行為にもとづく損害賠償は金銭によるという原則(722条)が定められています。被害者は自分が被った損害を金銭に換算した額を加害者に払ってもらうことができます。
交通事故では自賠法が民法に優先して適用される
民法では、不法行為の損害賠償を受けるためには、被害者の方で加害者側の過失を立証しなければならないことになっています。しかし、交通事故の被害者側がこうした立証を行うのは非常に困難です。
こうしたことから、民法の特別法として、自動車損害賠償保障法(自賠法)というのが用意されています。自賠法では、交通事故の加害者は自らに過失がなかったことや被害者に落ち度があったことを証明しない限り、原則として損害賠償責任を負うこととされています。また、自賠法は強制保険(自賠責)により被害者のための最低限の補償を確保するシステムを設けることを定めています。
なお、自賠法は人身事故については適用されますが、物損事故には適用されません。物損事故の場合には、原則どおり民法に従って損害賠償することになります。
人身事故の場合には民法に優先して自賠法が適用されますから、他の不法行為に比べて被害者の保護が厚くなっているのです。
交通事故は民法上の不法行為ですが、人身事故では民法よりも自賠法が優先され、加害者には民法よりも重い責任が課されることになります。交通事故の加害者となった場合には原則的に損害賠償責任を逃れることができないということや、被害者となった場合には自賠法にもとづき最低限の補償が受けられることを認識しておきましょう。