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交通事故に関わる法律~損益相殺

2016.06.15更新

発生した損害が全て賠償されるのか

交通事故で損害を被った場合、その交通事故によって被害者の方が被った損害額全てを、加害者に対して請求できるわけではありません。

もし、交通事故の発生につき、被害者の方にも過失があった場合には、過失割合に応じて賠償額が減額されます(民法722条2項)。これを過失相殺といいますが、過失相殺以外にも賠償額の減額が行われる場合があり、それを「損益相殺」と呼んでいます。

本トピックスでは、この損益相殺についてご説明したいと思います。

損益相殺とは何か?

交通事故によって被害者やその相続人(被害者が亡くなられた場合)が、損害と同質性を有する利益を受けた場合、加害者の賠償すべき金額から、当該利益を受けた金額を控除すべき、というのが損益相殺の考え方であり、最高裁判所の判例もこれを認めています(最大判平成5年3月24日)。

損益相殺は、被害者が交通事故を原因として二重に利益を得ることを防ぎ、被害者と加害者間の公平を図る考え方です。しかし、交通事故によって被害者が得た利益や支出を免れた費用が、全て損益相殺の対象となるわけではありません。

損益相殺されるもの、されないもの

何が損益相殺の対象となり、対象とならないかについては民法で定められていないため、これまで多数の判例が出されています。

判例上、損益相殺により控除されるとしたものとしては、被害者が死亡した場合の被害者の生活費(最判昭和39年6月24日)、賠償請求権者に対して給付されることが確定した遺族年金(最大判平成5年3月24日)、労災保険に基づいて支給された保険給付(ただし、使用者の行為によって災害が生じた場合、最判昭和52年10月25日)

判例上、損益相殺としての控除を認めなかったものとして、死亡した幼児の養育費(最判昭和53年10月20日)、生命保険金(最判昭和39年9月25日)、賠償請求権者以外の者に給付された遺族給付(最判昭和50年10月24日)・賠償請求権者に対して給付されることが確定していない遺族年金(最大判平成5年3月24日)、労災保険特別支給金規則に基づく特別支給金(最判平成8年2月23日)等があります。

労災保険に基づく給付について

労災保険に基づく給付については、損益相殺による控除を認めた判例と控除を認めなかった判例があり、結論が分かれています。以下ではその違いを説明します。

損益相殺による控除を認めた判例としては、最判昭和52年10月25日があります。

最判昭和52年10月25日は、特殊自動車の分解整備業を行っていた被害者が、作業中にワイヤーロープから吊り下げられていた貨物の落下を受けて重傷を負った事案です。労災保険の関係でいうと、使用者の行為により災害が生じた場合に該当します。

最高裁は、使用者の行為等による災害の場合において、被災労働者が労災保険法上の保険給付を受給したときは、労基法84条2項の規定を類推適用して、使用者は同一の事由についてその価額の限度で損害賠償責任を免れる、との判断を行いました。同判例は、このような判断を前提として、損益相殺による控除を認めたものと思われます。

一方、最判平成8年2月23日は損益相殺による控除を認めていません。同判例は、上記最判昭和52年10月25日を引用し、労災保険の保険給付は、労働者の損害をてん補する性質を有するから、使用者の行為による事故により給付がなされたときは使用者はその給付の価額の限度で労働者に対する損害賠償の責めを免れるとした上で、被災労働者は休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金を支給できるが、この特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであると認定しました。

その上で、「このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないというべきである。」との判断がなされたのです。

このように、最判平成8年2月23日は、労災保険に基づく特別支給金は、労災保険の保険給付とはその性質が異なるため、損害賠償額から控除できないと判断した、ということができると思われます。