交通事故に関わる法律~自動車損害賠償保障法(自賠法)
2015.05.26更新
交通事故は民法上の不法行為ですが、人身事故の場合には民法の特別法である自賠法が優先して適用されますから、加害者は自賠法により被害者に損害賠償する責任が発生します。自賠法では、民法よりも被害者が損害賠償を受けられる要件を緩和したり、強制保険である自賠責を用意したりして、交通事故の被害者の保護を手厚くしています。
交通事故では民法の特別法である自賠法が適用される
自動車を運転中に交通事故を起こして他人を死傷させてしまったときには、損害賠償をしなければなりません。交通事故は民法上の不法行為に該当しますから、交通事故の損害賠償は民法に従って行われるのが原則です。
けれど、被害者が民法にもとづき加害者に損害を賠償するときには、被害者側で加害者の過失を証明しなければならないことになっています。交通事故の被害者が加害者の責任を立証することは、現実には非常に困難ですから、民法だけでは交通事故の被害者が十分に救済されないことになってしまいます。
そこで、交通事故の被害者を救済するために作られた法律が自動車損害賠償保障法(自賠法)です。自賠法は民法の特別法ということになります。
交通事故の加害者は自賠法により損害賠償義務が発生する
自賠法では、自動車を運転中に交通事故を起こした場合には、加害者は原則的に損害賠償責任を負うものとされています。そして、例外として、加害者に損害賠償責任が発生しない場合について規定しています。
自賠法によれば、加害者側は、自らが注意を怠らなかったことや被害者に落ち度があったことなどを立証したときに限り、損害賠償義務を免れることになっています。実際のところ、加害者側でこうした立証を行うのは困難ですから、自賠法は交通事故の加害者に無過失責任に近い責任を負わせていることになります。
また、自賠法では、交通事故の損害賠償義務を負う主体について、「自己のために自動車を運行の用に供する者」と、民法よりも広く規定しています。自賠法では、交通事故の場合には、運転者だけでなく運行供用者(車の所有者や運転者を雇っている会社など)も損害賠償責任を負うことになります。
ドライバーは自賠責への加入が義務付けられている
交通事故の加害者に責任が認められても、被害者の損害を賠償できるだけのお金がなければ、被害者は救済されないことになってしまいます。そこで、自賠法では、自動車を運転する人を強制的に保険に加入させる自動車損害賠償責任保険(自賠責)の制度を定めています。
公道を走る全ての自動車は、自賠法により、自賠責に加入することが義務付けられており、自動車を運転中に事故を起こした場合には、まず自賠責から被害者に損害賠償金が支払われるしくみになっています。
ドライバーはもし自賠責に加入せずに公道を走ったら、自賠法により1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則を受けます。また、道路交通法により6点減点という行政処分を受けますから、それだけで免許停止になってしまいます。
なお、自動車保険には自賠責のほか任意保険があります。自賠責で支払われる額というのは上限が決まっていますから、自賠責分を超える損害賠償額をカバーするために、任意保険に加入するシステムになっているのです。
交通事故の被害者を最終的に救済する政府保障事業
自賠責は強制保険ですが、実際には交通事故の加害者が自賠責に加入していないこともあり得ます。そして、もし加害者が自賠責にも任意保険にも加入していなければ、交通事故の被害者が救済されず困ったことになってしまいます。
こうした場合に備えて、自賠法は、国による交通事故の被害者救済制度(政府保障事業)を用意しています。政府保障事業では、自賠責保険の会社が窓口になっており、自賠責と同額の保険金を受け取ることができます。
自賠責は、車で公道を走る全てのドライバーに加入が義務付けられている強制保険です。もし交通事故の加害者となった場合にも、自賠責に加入していれば、自賠責から被害者に損害賠償金を払ってもらえます。交通事故の被害者となった場合には、少なくとも加害者が加入している自賠責に損害賠償請求できますから、覚えておきましょう。